コロナが影響して歯科医院へ通わない人が続出?歯科と全身の関係ご存知ですか?

コロナの影響で人混みを避けるような生活スタイルへ変えた人は多いのではないでしょうか。飲食店はもちろん、病院の待合室や駅のベンチでもソーシャルディスタンス(社会的距離)を啓発する張り紙がされています。俗にいうコロナ患者を受け入れている病院では、患者さんが「感染するかも」という不安な気持ちを持っていることが多いです。歯科医院にも同じように、通院すると感染するのでは?という気持ちを抱いている方が一定数います。今回はそんな定期検診に関するお話をしたいと思います。

  • 歯科医院の定期検診

歯科医院へ定期的に通院している方はどれくらいいるのでしょうか。厚生労働省の患者調査を見てみると歯科診療所へ通院している患者数の年推移がわかります。昭和30年には1年間に37万人程度の患者が全国の歯科診療所へ通院していましたが、その数は年々増加の一途を辿ります。バブル期直前の昭和55年からは患者数が一気に増加。昭和58年には年間133万人もの患者数となりました。その後は横ばいを維持しており、平成26年には約136万人の患者数となったのです。特に平成11年以降は増加傾向が強く、国民の歯科への興味深さを読み取ることができます。

▲通院する患者の悩みの変化

昔は「歯医者といえば虫歯」と言ったように通院する人の多くが虫歯治療が目的でした。実際、日本国民における虫歯保有率は高く、特に子供の虫歯本数は他国と比較してずば抜けた多さでした。平成元年には3歳児1人あたりの平均虫歯本数が3本、12歳児1人あたりの平均虫歯本数が4本強でした。平成27年になると3歳児1人あたりの平均虫歯本数が0.6本、12歳児1人あたりの平均虫歯本数が0.9本となっています。平成や令和時代になり、虫歯で悩む人は少なくなっていることがわかります。

令和の今、人々が歯科医院に求めていることは虫歯治療ではなく予防となっています。予防医学は内科などでも実施されており、高血圧や糖尿病予備軍とされる患者に対して生活習慣改善や運動療法の推進などで健康体を維持してもらおうというものです。歯科でも予防医学が導入され始めています。中でも虫歯や歯周病に対する予防です。虫歯は日本国内にあるものが普及したことで発症率が大きく減少しました。そのあるものの正体はこの後紹介します。一方、歯周病の罹患率は年々増加傾向となっているのです。その理由についてもまた後述したいと思います。

歯周病とは歯を支えている骨や歯根膜など歯周組織と呼ばれる組織が細菌により侵襲され、組織破壊が起きる状態です。最初は歯茎が赤く腫れる歯肉炎という状態となり、その後歯を支えている歯槽骨が溶けて歯周病となるのです。歯周病は歯を失う原因の第一位で、歯周病を予防できればいつまでも自分の歯で生活できると言い換えることができます。

歯周病予防に効果的なのは毎日の歯磨きです。しかし、多くの国民は正しい歯磨きを習ったことがなく、虫歯や歯周病予防意識が高まってきたとは言え、正しい清掃用具で自分の口腔内を清掃できている方は多くありません。そこで歯科医院の登場です。歯科医師や歯科衛生士であっても100%汚れを取り除けないといいます。毎日の歯磨きと並行して定期的に歯科医院へ通院して歯石除去やステイン除去をすることで口腔内をきれいに保つことができるのです。

では、話が少しそれましたが虫歯を減少させたあるものとは一体何なのでしょうか。答えはフッ素です。日本国内のドラッグストアにはフッ素入り歯磨き粉が多く登場しました。フッ素は歯を強くする効果があり、初期虫歯であれば虫歯菌の働きを抑制してくれます。また、日本国内の上水道にはフッ素が少量含まれており、歯磨き粉を使わない人にも虫歯予防効果が期待できます。この結果、日本国内の虫歯は大きく減少していったのです。

▲歯を残す時代となった

歯周病罹患者が増えた背景には、虫歯の減少と国民意識の変革が関わっています。歯は神経を取り除く・削るなどすれば弱くなっていきます。弱くなると咀嚼をしただけで歯が欠けることもあり、破折してしまった歯は抜歯が検討されるのです。しかし、今の日本では虫歯が大きく減少しましたね。虫歯の減少とともに国民の歯科に対する意識も変わってきました。昭和初期には見向きもされなかったホワイトニング治療やセラミック治療など、「見た目」を意識するようになってきたのです。

自分の歯で噛めるように日本歯科医師会は「8020運動」という運動をスタートさせました。これは80歳で自分の歯を20本以上残しましょう。という意味です。8020運動をスタートさせた結果、高齢者の方でも自分の歯が残るようになりました。歯周病の話に戻りますが、歯周病は歯を支える組織で病的変化が起きます。つまり、歯の残っている人が増えれば歯周病の患者数も増えるのです。

時代は変化し、歯科医療では「ダメになった歯を抜く治療」から「ダメにならないように予防して歯を残す」治療へと変わっていきました。

▲メインテナンス中心の歯科医療

歯を残す時代となり、歯科医療ではメインテナンスが重要視されています。歯科医院へ受診している人の30%程度はメインテナンス中心で、定期的に歯科医院で診察を受け口の中のクリーニングをしてもらっているのです。初期虫歯があればその時に歯科医師からチェックを受け、治療をする。虫歯は放っておくと歯の神経まで蝕み、歯の根元に膿の袋を形成することもあるのです。そこまで病状が進行すれば神経を取り除くだけでなく、最悪の場合抜歯が必要になります。初期虫歯のうちに治療をしてしまえば歯を長く残せるのです。メインテナンスはいわば予防なので、病気があるわけではありません。歯茎が腫れて寝られない・食事ができないなどの急患とはわけが違うのです。新型コロナウイルスの影響で歯科医院から足が遠のいている人の多くはメンテナンスの方です。メインテナンスは不要不急の外出に当たるのかと言われれば微妙なところですが、病状悪化を防ぐ意味では不要不急の外出に当たらないと考えられます。実際、医療法人社団「桜翔会」による調査結果によると、新型コロナウイルスの影響で歯科医院の通院回数が減ったことにより口腔環境が悪化したという報告がありました。メインテナンスを受けている患者さんは自分で口腔内を衛生的に保つことが難しい人が多く、虫歯や歯周病の発見が遅れ病状が進んでしまうのです。

  • 歯科と医科の連携

歯科医院へ通うことは口の健康を保つだけなのでしょうか。実は医科と歯科は密に関係しているのです。例えば、糖尿病患者の多くは歯周病を併発しており、治療しているにもかかわらず治りが悪い人は糖尿病の検査数値が悪いことが多いです。また、口腔内が不潔な人は誤嚥した際に「誤嚥性肺炎」のリスクが高くなります。近年では歯周病の人は認知症リスクが高い、妊婦さんで口腔ケアをしていない場合、低体重児出産のリスクが高くなるなどが報告されています。

今や、歯科医院へ通うことは虫歯を予防する・歯周病を予防するなどの狭い話ではなく認知症や糖尿病など全身疾患を予防するために必要なのです。がん治療中の方も口腔ケアをすることで治癒率が高くなっているというデータがあります。

  • 通えないに理由をつけない

ある歯科関係者の話では1回目の緊急事態宣言のときよりも2回目の緊急事態宣言の方が通院者が増えているという話がありました。当初、緊急事態宣言が発出されたことや新型コロナウイルスというウイルスがどのような悪さをするのか不明な点も多かったことが原因となり通院を懸念する人がいましたが、今ではウイルスの正体がだんだんとわかってきています。多くの歯科医院は換気だけでなく、エアロゾル感染を防ぐために口腔外バキュームという装置で唾液や削りカスが飛散するのを防いでいます。治療中の歯科職員側のマスク着用はもちろんですが、受診者にも来院時の体温チェックや手指消毒、体調が悪い時には受診しないなどの注意喚起していたり、治療前にイソジンなどうがい薬で口腔内をうがいしてもらっているところもあり感染対策には配慮しています。歯科医院へ通うことは全身疾患の予防にもつながります。通わない理由を見つけるのではなく、受診者自身も感染対策に気をつけながら予防をしてみたらいかがでしょうか。

近年は、入院しながら治療することが難しくなってきています。
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