高齢者の嚥下機能低下とは?具体的な症状や原因について解説
「食事中にむせることが増えた」
「飲み込むのが大変そうになっている」
高齢の家族に見られるこうした変化は、嚥下機能の低下によるものかもしれません。嚥下機能の低下は、食事の楽しみを奪うだけでなく、誤嚥性肺炎や栄養不足といった健康リスクを引き起こす可能性があります。
しかし、嚥下機能低下は早期のケアや適切な対策によって予防・改善が可能です。本記事では、嚥下機能が低下する原因や具体的な対策を解説します。
Contents
嚥下(えんげ)とは
嚥下とは、口の中に入れた食べ物や飲み物を飲み込み、胃まで運ぶ一連の働きを指し、嚥下を行うための機能を嚥下機能と呼びます。
嚥下は、次の5つの過程で構成されています。
- 先行期:
食べ物や飲み物を見て、匂いを感じ、口へ運ぶ準備をする段階 - 準備期:
口の中で食べ物を噛み砕き、唾液と混ぜて飲み込みやすい形にする段階 - 口腔期:
舌を使い、食べ物や飲み物を喉へと送り込む段階 - 咽頭期:
食塊が喉から食道に送られる段階 - 食道期:
食塊が食道を通り、胃に運ばれる段階
これらの過程が滞りなく行われることで、私たちは食べ物を安全に消化器官へ運ぶことができます。
しかし、加齢や疾患により嚥下機能が低下すると、この流れがスムーズにいかなくなり、むせたり、誤って気管に入り込んだりするリスクが高まります。
高齢者の嚥下機能低下がもたらすリスク
高齢者における嚥下機能の低下は、健康や生活にさまざまな深刻な影響を及ぼします。この章では、主なリスクを解説します。
誤嚥性肺炎の危険性
嚥下機能が低下すると、食べ物や飲み物が気道に入りやすくなり、これが原因で誤嚥性肺炎を引き起こすことがあります。
特に高齢者のように免疫力が低下している場合、誤嚥性肺炎は重症化しやすいため、高齢者の死因のひとつにもなっています。
〈関連記事〉誤嚥性肺炎の原因!嚥下障害を徹底解説
窒息のリスク
飲み込みの力が弱まると、食べ物が気道を完全に塞ぎ、窒息を引き起こす危険性が高まります。特に高齢者は咳反射が弱まるため、窒息のリスクが高くなります。
低栄養や脱水症状
嚥下機能の低下により、飲み込むことに対して不安を抱くと、食べることや水分を摂ることに対しても消極的になりやすく、低栄養や脱水症状というリスクが生じます。
低栄養になると筋力も低下しやすくなり、転倒や骨折にもつながります。
薬の服薬困難
嚥下機能の低下は、薬を飲むのも難しくなる場合があり、適切な治療を受けられなくなるリスクがあります。
嚥下機能低下で現れる症状と日常生活への影響
嚥下機能の低下は、高齢者の日常生活にさまざまな影響を及ぼします。初期段階ではささいに感じる症状でも、放置することで深刻な問題に発展する可能性があります。
以下に、嚥下機能低下がもたらす症状や生活への影響を詳しく解説します。
食べているときの症状
- むせる:
水やお茶を飲むときにむせるのは、嚥下機能が低下しているサインのひとつです。 -
食べ物が口からこぼれる:
唇や頬の筋力が低下することで、食べ物をうまく口の中に保持できなくなります。 - 飲み込みにくさや喉に詰まる感覚:
固形物や水分がスムーズに飲み込めず、喉に引っかかる感覚がある場合、嚥下機能が低下している可能性があります。
食事パターンの変化
-
食事に時間がかかる:
飲み込むのに苦労するため、食事の時間が長くなり、食後に疲労感を覚えることがあります。 - 食事内容や食べ方の変化:
噛む力が低下し、柔らかいものを好むようになったり、飲み込みやすい姿勢を無意識にとることもあります。
食後や日常生活での症状
-
食後のせきや痰:
誤嚥が原因で喉に食べ物が残り、痰が増えたり、声がかすれることがあります。 - 口の中の汚れが強くなる:
食べ物が口内に残ることで、細菌が繁殖しやすくなり、口臭や歯周病のリスクが高まります。
長期的な影響
- 体重の減少や栄養状態の悪化
- 誤嚥性肺炎のリスク
- 食事の楽しみの減退
これらの症状は、単独で現れる場合もあれば、複数同時に発生することもあります。症状の現れ方や程度には個人差が大きいため、少しでも気になる兆候があれば、早めに医療機関や専門家に相談することが重要です。
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嚥下機能が低下する原因
嚥下機能の低下は、さまざまな要因が複雑に関与しています。原因は大きく以下の3つに分類され、それぞれ異なるメカニズムで嚥下障害を引き起こします。
1.機能的原因:筋肉や神経の異常
機能的原因とは、嚥下に関わる器官自体には構造上の問題がないものの、それを動かす筋肉や神経の働きに異常が生じる場合を指します。主な要因として以下が挙げられます。
- 脳血管障害:脳の損傷が原因で、嚥下に必要な神経や筋肉の制御が困難になることがあります。
- パーキンソン病などの神経変性疾患:筋肉の動きを調節する機能が低下し、スムーズな嚥下が難しくなります。
- 加齢による筋力低下:年齢とともに全身の筋肉が衰えるように、嚥下に必要な筋肉も弱まります。
- 薬剤の副作用:抗精神薬などの影響で、唾液の分泌が減少したり、筋肉の動きが鈍くなることがあります。
2.器質的原因:構造上の問題
器質的原因は、嚥下に関わる器官そのものに物理的な異常がある場合を指します。以下のような要因が考えられます。
- 腫瘍:
嚥下の通り道が腫瘍で狭くなることで、食べ物の通過が困難になります。 - 炎症:
炎症により痛みや腫れが生じ、飲み込む動作が制限されます。 - 手術後の障害:
がん治療や外科手術後による障害で、嚥下機能が低下するケースもあります。
3.心理的原因:精神的な要因
心理的な要因も嚥下機能に影響を与えることがあります。以下のようなケースが挙げられます。
- うつ病
- 神経性食欲不振症
- 過度なストレス
- 認知症
高齢者が嚥下機能低下を防ぐための対策
嚥下機能の低下は、日々の取り組み次第で予防・改善することが可能です。以下に、効果的な対策を紹介します。これらを無理のない範囲で日常生活に取り入れ、継続することが大切です。
日常的な口腔ケア
口腔内を清潔に保つことは、嚥下機能を維持するための基本であり、とても重要なことです。
外出後のうがいや、毎食後の歯磨きは行うようにしましょう。入れ歯は定期的に取り外して洗浄します。
また、舌の清掃も大切です。舌用ブラシやスポンジブラシを使い、舌苔(ぜったい)を取り除くことで口腔環境を整えましょう。
口腔体操
口腔体操は、嚥下に関わる筋肉を鍛えるための基本的なトレーニングです。日常生活に取り入れることで、嚥下機能の維持や向上が期待できます。
- 首のストレッチ
- 頬の運動
- 舌の運動
- パタカラ体操
- 唾液腺マッサージ
具体的な方法は、下記にも書いてありますので、参考にしてみてください。
〈関連記事〉高齢者がむせる原因とは?|予防策まで解説
食事形態の調整
食事形態を工夫することで、嚥下の負担を軽減し、安全に食事を楽しむことができます。
- 少量ずつ食べる:
一口の量を少なくし、しっかりと飲み込むことを意識することで、リスクを減少させます。 - 食材の調理方法を工夫する:
野菜や肉を柔らかく煮たり、小さく切ったりすることで、噛みやすく飲み込みやすい状態にします。 - 誤嚥しにくい食事を選ぶ:
ゼリー状の食品やとろみをつけた飲み物は、誤嚥のリスクを最小限に抑えます。
食事環境の整備
食事をしているときの環境や姿勢も大切です。
できるだけ背筋を伸ばして座ることや、飲み込む際に顎を軽く引くことで、むせにくくなります。
また、食べるペースも関係しており、一口ごとの量を少なめにし、よく噛んでゆっくり食べることで、安全性が向上します。
まとめ
嚥下機能は、私たちが栄養を摂取し、食事を楽しむために欠かせない重要な働きです。しかし、加齢や病気、生活習慣の影響でその機能が低下すると、健康に大きなリスクをもたらします。特に、高齢者にとって誤嚥性肺炎や栄養不足は命にも関わる問題です。
嚥下機能を維持するためには、日々の口腔ケア方法や食事環境の工夫など、その方に合ったものを見つけていくことが大切になります。
もし食事中にむせることが増えたり、飲み込みにくさを感じたりする場合は、早めに医療機関を受診しましょう。早期発見と適切な対処が、さらなる機能低下や合併症の予防につながります。
わたしたちアグリーグループでは、関東を中心に一都8県34箇所(2024年11月現在)に訪問診療所を展開しています。急な体調の変化に対しても、24時間365日対応が可能なため、お気軽にお問い合わせください。