訪問診療で「できること」と「できないこと」

訪問診療をはじめとする在宅医療が普及してきました。多くの医療機関が「患者さんを待つ医療」から「患者さんの元へ行く医療」へ挑戦しています。しかし、今までの医療の常識から考えると医療設備の整った病院やクリニックへ行き、必要に応じた検査をした結果で投薬など治療を受けるイメージですよね。そのイメージを持っている人は、訪問医療など在宅医療に対して「しっかり治療できるのか」という不安な気持ちを抱くこともあるのではないでしょうか。そこで、今回は訪問診療で実際に「できること」と「できないこと」についてご紹介していこうと思います。

●訪問診療とは?
訪問診療とは、在宅医療の中の一つを意味します。医療は大きく分けて3種類に分けることができます。一般的な医療とされる「外来医療」と入院して受ける「入院医療」、患者さんの自宅や入居している施設へ行く「在宅医療」の3つです。この在宅医療の中に位置する訪問診療は、1986年に保険診療により報酬が支払われることになりました。

保険診療で認められたのは1986年ですが、それ以前から各地域の医師により自主的に「往診」として訪問診療が行われていました。この背景には、地域の高齢化や患者の希望する最期の場所が自宅であるなど意識調査が関係してきています。自宅を最期の場所にしたいと考えている人は、高齢者だけでなく予後不良の病気に罹患している患者さんにとってもニーズが高まっています。

▶︎訪問診療と往診の違いとは?
訪問診療と往診は同じような言葉ですが、意味合いは異なります。保険診療上の言葉の違いでは、訪問診療は定期的に患者の自宅へ訪問して医療サービスを提供することをいいます。一方、往診は突発的に患者の容態が急変したときに訪問して医療サービスを提供することをいいます。

▶︎訪問診療の歴史
訪問診療は歴史とともに治療の特徴が変化してきました。例えば、1965年までの決して国全体が豊かではなかった時代では感染症や脳卒中など急性疾患に対して、医師が往診することがありました。この時代は、感染症や脳卒中などの急性疾患が原因で亡くなる人が多く平均寿命は60歳代でした。
その後、1970年〜1990年代前半にかけて脳卒中・がん・心臓病が日本人の死因トップ3に入ってきました。この時期には入院医療が中心となり、在宅医療を希望する人の多くは最期を自宅で過ごしたいという方でした。

1990年前半〜2010年代に入る頃には、平均寿命が伸びてきたことにより死因トップ3だけでなく介護保健と併用した在宅医療が行われるようになりました。そして、2020年に入ろうとしている現在、日本は超高齢化社会になりました。また、在宅医療に対するニーズが高まったこともあり入院医療から在宅医療へと医療のあり方がシフトチェンジしてきています。

この推移によって、1965年前までは外来医療も在宅医療もそこまで医療の質に差がありませんでしたが、医療の進歩によって外来医療と在宅医療に差が出てきたことがわかりました。

●訪問診療でできること
ここからは訪問診療でできることを紹介していきます。実際にご自身やご家族が望んでいる療養内容とマッチするか参考にしてみてください。

▶︎通常診療
問診や触診をはじめとする一般的な診療は在宅医療でも行えます。問診とは過去の病歴や現在の病歴について聴取するだけでなく、直接患者の表情や患部の状況を視診することです。また、患部に触れることを触診といいます。

▶︎点滴薬剤の投与
多くの入院医療で使用されている点滴薬剤は在宅医療でも投与できますが、若干制限があるのも事実です。事前に家族やご自身が求めている薬剤が在宅でも使用できるか確認しておきましょう。

▶︎カテーテル管理
自分の意思で排泄できない患者さんへ使用するのがカテーテルです。現在では、医療器具の発展により在宅医療でもカテーテル管理が行えるようになりました。

▶︎経管栄養管理
脳梗塞など脳血管疾患が原因で経口摂食ができなくなってしまった方に対して、胃ろうなどで栄養管理を行うことができます。実際に経管栄養管理をすると病院で過ごすよりも自分の時間を大切にでき、生活の質が上がることがあります。

▶︎がん緩和ケア
がんは「末期がん」に限定されていますが、実際は主治医の判断に委ねられる部分が大きいです。およその目安として予後6ヶ月と明記されていますが、手術ができない程度のがんであれば医療保険の制限なしに在宅医療を利用できます。

▶︎看取り
患者さんやご家族に最期まで自宅で過ごしたい、家族で看取りたいという意思があればご自宅での看取りも可能です。在宅で看取るためには、医療と看護、介護で24時間体制の連携が取れる環境を整備する必要があります。


▶︎予防接種注射
各種予防接種やワクチンなど年齢に応じた処置ができます。各種予防接種やワクチン投与が自宅でできるだけで、感染症のリスクを低減させるだけでなく生命のリスクにも対応できます。

▶︎各種検査
血圧計や酸素飽和度測定器などを持ち込むことが可能です。そのため、血圧測定や血中の酸素飽和度、血液検査、簡易に持ち運べる検査機器を所有する診療所によっては血液ガス検査、心電図検査、超音波検査、レントゲン検査などを実施できます。また、検尿検査や検便検査も行えるため基本的な検査であればできると言えます。

▶︎医療相談
医療相談内容は、治療内容や今後の方向性はもちろん毎日のケアの仕方や療養に関する様々なことです。訪問看護の利用だけでなく、在宅介護の仕方や介護保険に関する相談にも応じます。在宅医療についてわからないことを相談できる強い見方といっても過言ではありません。

●訪問診療でできないこと
訪問診療ではできることがある一方、できないことも多く存在します。これから法整備や医療機械等の進化でできることが増えてくると思いますが現在の段階でできないことを紹介していきます。

▶︎大掛かりな手術
在宅医療は、自宅や施設をベースに医師や看護師が訪問して療養を提供します。そのため、大きな手術はできません。もちろん、訪問診療に移行している方は急性期のことが少なく在宅で穏やかな療養を求めていることが多いです。しかし、病状の急変で緊急処置が必要とされているときにはできる処置に制限があることも理解しておきましょう。

▶︎医療機械を使用する検査
医療では精密医療機器を使用しなければできない検査があります。どうしても訪問医療では、できる検査に制限が出てきてしまいます。例えば、CT検査やMRI検査など画像検査です。検査が必要と訪問医が判断した場合、またはご家族・ご本人が希望される場合には連携する医療機関を紹介して検査受診となります。

▶︎入院療養中の外泊時の対応
これはできないことというより整備が不十分な点です。入院医療で療養している人が外泊ということで自宅へ帰る際に、訪問看護の利用は可能です。しかし、外泊中の方に対する訪問看護サービスには利用制限があるため、緊急時の対応や複数回の訪問は各訪問看護事業者のボランティアによって行われます。そのため、体調急変時には救急搬送で対応することが多いです。さらに、もし外泊中に亡くなってしまった場合は入院療養中の病院から医師が訪問対応か、その対応が難しい場合は救急搬送か検死対応の必要があります。さらに、外泊期間中は介護保険サービスは一切利用できません。つまり、介護保険制度が整う前の日本に戻り、家族だけで介護することになるのです。入院医療から在宅看護に移行する前にはソーシャルワーカーや病院の医師・看護師へ相談するようにしましょう。

▶︎医療から離れること(家族)
在宅医療は、家族の協力なしでは進めることができません。つまり、少なからず家族にも負担がかかってしまうのです。在宅医療を利用している家庭では、家族が何日も家を開けることが難しくなってしまう場合があります。患者だけでなく、家族も医療から離れることが難しくなってしまうのが在宅医療の課題の一つでしょう。近年では、訪問診療事業者の自費サービスの一環として家族の休息のためのサービスを用意している事業所もあります。家族が毎日医療と向き合わなければいけない在宅診療だからこそ、サービスを活用し家族もきちんと休息をとるようにしましょう。

●まとめ
訪問診療では、できない療養が多いというイメージを抱いている人が多いです。しかし、近年では国の方針転換もあり訪問診療のニーズが増えています。訪問診療はできることが多い一方、できないことや不十分な法整備があります。ですが、完全に訪問診療で医療を完結することができなくても、自費サービスや他医療機関と連携することで「できない」ことを補って療養することができるのも事実です。みなさんもご自身や家族の人の病状・身体の障害の有無などから訪問診療で何を対応してもらうのが療養上良いか選択するようにしましょう。訪問診療の目的は生活の質の向上です。入院医療ではフォローアップできない生活の質を向上させませんか?

近年は、入院しながら治療することが難しくなってきています。
そこで私たちは、住み慣れたお住いに、24時間365日いつでも、どこでも、誰にでも医療をお届けするサービスを提供しております。もちろん緊急事態にも24時間体制で医師と看護師が対応いたします。好きな地元でゆっくり落ち着いて、お一人お一人その人らしく療養できるよう、患者様やご家族様に寄り添った医療を提供いたします。地域を愛し地域に根付き地域に愛される強い信念でお手伝いさせていただきますので、最期までお付き合いさせてください。

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