家族を看取るまでにできることとは?最期の別れは本人の望む形で迎えませんか?
厚生労働省が発表した「平成29年人口動態統計」を見ると、年間136万人が死亡しているとされています。いったい、約136万人のうち何名が自分の望んだ形で最期を迎えられているのでしょうか。ちなみにこの死亡数の中には不慮の事故や天災・自殺で亡くなった方も含まれています。
みなさんは、ご家族が高齢になり、老衰・病気・障害の進行により残された時間が限られているような場合にどのように対応しますか?出来るだけご家族の希望に沿った形で最期を迎えて欲しいと思う方が多いのではないでしょうか。そこで今回は自宅で最期を迎えたいという家族を看取るときにできることを紹介していこうと思います。
■生活の質を向上させる看取りを実現するため
ご家族に残された時間が限られているときには、治療を目的とせずに「残された時間を充実させる」ことを目的にする考えがあります。これは、ターミナルケアと呼ばれるもので1960年代からイギリスや欧米で広がった考え方です。
ターミナルケアは「人生の残り時間を自分らしく過ごし、満足して最期を迎えられるようにすることを目的とし、治療による延命よりも病気の症状などによる苦痛や不快感を緩和・軽減することで心の平穏や残された時間を充実・維持・向上することを優先させること」を意味しています。
末期がんや治療をしていたけれど療養の成果がみられず、患者さんだけが辛い思いをしているような状況の場合や、認知症が進行している方や寝たきりの患者さんにもターミナルケアが選択されることがあります。つまり、治療よりも残された生活を心穏やかに過ごしてもらうように努め、生活の質( QOL quality of life)を向上させることを目的としているのです。
- ターミナルケアと緩和ケアの違い
ターミナルケアを紹介すると、どうしても緩和ケアとの違いについて気になってしまいます。一言で言えば、緩和ケアの一部にターミナルケアがあると言ってよいでしょう。緩和ケアとは、疾患の早期より痛み、身体的問題、心理社会的問題、精神的な問題に関し評価をおこない、それが障害とならないように予防したり対処しQOLの改善を図るものです。
ターミナルケアが、治療よりも残された生活を心穏やかに過ごしてもらうように努める「終末期医療」「終末期看護」であるのに対し、緩和ケアはターミナルケアの要素に加えて治療も並行して進める点に違いがあります。
- ターミナルケアはいつからできる?
ターミナルケアをいつから始めるかというのは患者さんやそのご家族の判断でいつからでも始めることができます。通常の治療同様、ターミナルケアを行うかどうかは患者本人や家族の意思に任されています。
がんなどの病気の場合には、病状から予測される余命や、治療の効果が期待できるかどうかなどを考慮して、タイミングを決断することになります。認知症や老衰の場合は、寝たきりになって介助があっても食事ができなくなったときが、一般的にターミナルケアの開始時期と考えられています。
しかし、一つだけ慎重に考えていただきたいのはターミナルケアを始めるということは「延命治療をしない」こととほぼイコールとなることです。もちろん、一度ターミナルケアを始めても意思の変更があれば、治療を再開することもできます。しかし、その場合病気や障害の進行にもよりますが完全な治療ができるとは限りません。
治療中であれば治療の効果がみえない、一定の治療成績以上が出ない、治療による副作用などの苦痛が治療効果より大きいなどが明らかになってからターミナルケアを検討しても遅くはないのではないでしょうか。
本人の意思で開始を決断できるのが理想的ですが、特に認知症の場合、意思確認が難しくなっていることもあり、その場合は家族が判断します。
一般的には、患者さんが寝たきりになり食事が取れない・治療の効果がみられず治療に疲れてしまったなどがターミナルケアの開始時期と言われています。
■ターミナルケアの内容
患者さんが残された時間を有意義に過ごすために行う「ターミナルケア」には、3種類のケアが存在します。「身体的ケア」「精神的ケア」「社会的ケア」の3つです。訪問診療や訪問看護によるケアもありますが、ご家族や友人の役割が重要かつ大きいのがターミナルケアです。
病気や障害により死を宣告された人の心理状態は「死」を受け入れるまでに、「なぜ自分が」という怒りや避けられない死への抵抗、恐怖や不安などの感情を言動で表すことがあります。その反応は家族、周囲の人間にとっても苦しい時期とはなりますが、こうした心理状態のプロセスがあることを理解しその段階を乗り越え死を受け入れ残された時間を充実したものにするため、ご家族や友人の方はコミュニケーションをとりながら支えになってあげてください。
では、ターミナルケアの3つの内容について紹介していきます。
- ターミナルケアの身体的ケア
身体的ケアとは、病気による痛みや苦痛を緩和することを目的にしています。主に投薬を中心に医師や看護師によりサポートしてもらいながら痛みに応じて薬の量や投薬内容を変えていきます。また、食事を自力で十分に摂取できないような方には栄養補給として経管栄養法で鼻や胃から管を通して行うことがあります。また、中心静脈栄養法という高濃度の輸液を点滴で行う方法もあります。
栄養補給も延命治療の一つになりますが、そもそも栄養補給を実施するかどうか、自然にまかせ口から飲めるだけ食べられるだけとするのか、実施するのであればどんな補給手段にするか、点滴で水分補給だけするのかといった選択は、本人または家族の意思を確認した上で進めます。
ターミナルケアは自然と「死」に向かう過程で苦痛を少なくすることを目的としています。
また、毎日の生活においては清潔・着替え・排泄・移動といった日常行為でストレスを感じないよう環境を整えることが大切です。患者さんが寝たきりなどの場合は、褥瘡(床ずれ)が発生しやすくなるため褥瘡防止や体を清潔に保つこと、誤嚥性肺炎予防のために口の中の清潔を保つことも身体的ケアとして大切です。
床ずれ防止や身体の清拭の仕方は看護師から指導を受けることでご家族でも簡単に行えます。さらに、身だしなみを整えることは、生活のリズムを整えたり、気分転換になったり、爽快感を感じたりと患者さんの意欲の向上に繋がります。さらに女性の場合はメイクをしたりといった「女性らしさ」を保つことは明るく過ごす手助けになりとても大切です。
- ターミナルケアの社会的ケア
患者さんが一人身や子供に迷惑をかけたくないと考えている場合は、入院や介護にかかる費用が負担に感じてしまいます。そこで、ソーシャルワーカーなど医療費制度に詳しい人へ相談して、医療費を軽減する方法について相談しましょう。また、今まで仕事の最前線にいた人や家族の中でも大黒柱のような立場だった人はターミナルケアを受けることに対して「迷惑をかけている」「もう自分は必要のない人間だ」など不安感や孤独感、役割の喪失感などの思いを抱いてしまうことがあります。こうなるとマイナス思考が強くなってしまい最期を迎えるにあたり心苦しい思いをすることがあるので、しっかりコミュニケーションを取って支えてあげてください。
・ターミナルケアの精神的ケア
精神的ケアとは、「死」に対する不安な気持ちや心残りを少しでも改善できるようにすることです。生活の中心がベッドになることで、今までと異なる生活環境に孤独感や閉鎖的な印象を受けることがあります。患者さんがリラックスできるようなるべく普段と変わりのない環境作りをして、患者さん本人が満足感を得られる空間にしてあげましょう。
そして、「死への恐怖や不安を拭い去ることは難しい」ということを理解し、死をタブー視せず患者さんが不安や心残りがないように一緒に過ごす時間を十分に作り、一緒に「死」と向き合うことは家族や友人にとって最も大切で重要な役割なです。
■家族が看取るまでにできること
では、今までターミナルケアについて紹介してきましたが私たちが家族のためにできることはどのようなことがあるのでしょうか。
- 思い出作り
例えば、仕事で忙しかったときは家族で出かけた記憶が少ないことも珍しくありません。そんな家族は家族旅行などに出かけるのはどうでしょうか。遠出する場合には、主治医から許可や旅行中の注意事項を聞く必要がありますが、家族で出歩けるうちに思い出を作ることも大切です。旅行先は今まで行きたくていけなかったようなところはもちろんですが、患者さんのルーツを辿る旅行でも良いです。患者さんが満足できるような旅行先に無理のないスケジュールで出かけるとより良い旅行になるのではないでしょうか。
- 患者さんがしたいことを応援
思い出作りとかぶるところがありますが、これは患者さん個人の思い出作りという側面が強いです。今までしたくてもできなかったようなこと、時間が取れずに後回しにしてしまっていたことを応援してあげましょう。例えば、ダイビングや長期間ゴルフや釣りをするなど趣味のことです。親子で過ごす時間が今まで取れなかった・夫婦で過ごす時間が少なかったと感じている場合は、親子や夫婦で共通の趣味を始めるのも良いでしょう。
- 終活の手伝い
ターミナルケアを開始すると自分の最期について考える機会が多くなります。終活は葬儀やお墓のことだけでなく、遺言を準備したり財産相続を考えたりします。身体が動くうちなら患者さん一人でできますが、ご家族の方も出来る限りで良いので終活のお手伝いをしてあげると良いでしょう。
- 寄り添い続ける
やはり一番ターミナルケアで重要なのは、家族が寄り添い続けることではないでしょうか。患者さんも出来るだけ家族に寄り添ってもらい、最期を迎えるまで充実した生活を送りたいと考えているはずです。医療は医師や看護師など専門家に任せて、ご家族と残された大切な時間を過ごしましょう。
■まとめ
家族を看取るとなった時、看取られる方もそうですが看取る方も後悔が残らないように準備したり、ケアを提供したり、支え合えたりできることが理想です。考え方や捉え方は様々です。100%後悔が残らない方法はありませんが、不安に思うこと、疑問に思うことなどを訪問医療のスタッフにご相談ください。一緒に最良の方法が何かを考えるお手伝いをさせてください。生活の質を保持しながら、人間らしく最期を迎えたいという方にはターミナルケアという選択肢も忘れないでいてください。
近年は、入院しながら治療することが難しくなってきています。
そこで私たちは、住み慣れたお住いに、24時間365日いつでも、どこでも、誰にでも医療をお届けするサービスを提供しております。もちろん緊急事態にも24時間体制で医師と看護師が対応いたします。好きな地元でゆっくり落ち着いて、お一人お一人その人らしく療養できるよう、患者様やご家族様に寄り添った医療を提供いたします。地域を愛し地域に根付き地域に愛される強い信念でお手伝いさせていただきますので、最期までお付き合いさせてください。