高齢者の多剤服用における問題点を紹介します

日本の平均寿命は男性が81.25歳、女性が87.32歳です。年々平均寿命は増加の一途を辿っており、これからも長寿大国日本として日本人の寿命は伸び続けることでしょう。しかし、その過程で問題となるのが高齢者の基礎疾患です。加齢現症といって、人間は高齢になればなるほど身体の機能が低下します。そんな身体の機能を補う・病気を治療するために飲むのが薬です。薬は市販薬と処方箋薬の2種類に分けることができ、それぞれに特徴があります。今回は高齢者における薬の話をしたいと思います。

●高齢者と薬の関係
高齢になればなるほど薬を服用している人の割合が高くなります。その理由は、持病を抱えている人が多くなるからです。NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」の調べでは高齢者のうち薬を処方されていない人はおよそ16%しかおらず、残りの人は服用していることとなります。では、薬は何種類飲んでいる方が多いのでしょうか。高齢者のうちおよそ30%の人は1〜2種類の薬を服用していることが多いです。そして、3種類〜4種類、5〜6種類と処方されている薬の種類が多くなるにつれて割合が減少していきます。
では、なぜ高齢者は服用する薬の数が増えてしまうのでしょうか。その原因は複数の医療機関を受診することが関係しています。高齢者ではない方は病院や診療所へは風邪を引いたときや急病をしたときなどポイントで行くことが多いのではないでしょうか。しかし、高齢者の方はポイントではなく、継続して長期的に通い続けていることが多いです。巷ではかかりつけ医という言葉も普及しているように、高齢者の健康管理はかかりつけ医で継続的に観察することで急変時や血液検査などで異常が現れたときに対処できるという考え方があります。個人のクリニックをかかりつけ医にしている人が多く、その多くは内科や整形外科・心療内科など1つの科しか標榜していないことがあります。つまり、個人クリニックで内科を標榜しているところでは整形外科の治療やリハビリを受けることができないため、整形外科を標榜しているクリニックへ通う必要があるのです。このようにして高齢者の方は自分の感じている悩みを解決するために様々な個人クリニックを受診しています。
Aという医療機関からは2種類の薬を処方され、Bという医療機関からは1種類の薬を処方されている場合でも合計では3種類の薬を服用していることになります。このように、何箇所かの医療機関を受診している高齢者は服用する薬の量が多くなってしまう傾向があるのです。

▲薬に関する医療知識
薬とは「くすり」と書く反面、逆から読むと「りすく」となります。つまり、薬の中にはリスクが隠されているのです。ここでは薬の副作用について紹介していきます。例えば鎮痛剤です。鎮痛剤は整形外科などで腰痛や関節痛の対処療法薬として使われることが多いですね。この鎮痛剤には副作用として胃腸障害があります。代表的なものが胃潰瘍です。胃粘膜をはじめとする消化器系の粘膜を荒らす危険がある鎮痛剤を服用するときは食後か胃薬を一緒に服用しましょう。
花粉症やハウスダストなどアレルギー体質の人が服用する抗ヒスタミン剤というのがあります。これは強い眠気が副作用として起きやすいため、車の運転を控えている方や細かな作業をしなければいけない方は注意が必要です。さらに、抗ヒスタミン剤は発疹も副作用として報告されています。過去に薬を服用して発疹が出た経験のある方は医師や薬剤師へ相談しましょう。
風邪をひいたときや皮膚が化膿したときに処方される抗生物質。これも副作用が多く報告されています。特にひどい副作用はアレルギーです。抗生物質の中でも代表的なペニシリン系の抗生物質に対してアレルギーのある人がいます。このような方はペニシリン系抗生物質を使用するとアナフィラキシーショックを起こすことがあるため注意が必要です。また、副作用とは言えませんが抗生物質は「適正使用」することが望まれています。

▲抗生物質の適正使用とは
抗生物質とは細菌感染症の原因となっている細菌を倒すために使用することが主です。細菌の抗生物質を破壊することで細菌自体を壊すため原因療法になる一方、正常な細菌や疾患と関係ない細菌も死滅させることがあるので注意しなければいけません。他にも抗生物質を多用する・不規則な間隔で服用するなどすると体内で抗生物質に抵抗する力を持つ細菌ができることがあります。これを耐性菌と呼びます。耐性菌ができてしまうと抗生物質が効かなくなってしまうことがあり、院内感染を引き起こす原因細菌になることもあります。院内感染で有名な細菌は2種類あります。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌や緑膿菌です。他にもバンコマイシン耐性腸球菌も院内感染で報告されている細菌です。
これら耐性菌を発生させないためには抗生物質を適切に使用する必要があります。抗生物質の適正使用には次のことを留意しましょう。
・適切な抗生物質を使用する
・適切な量を正しい期間服用する
適切な抗生物質を使用することは医師の仕事です。患者さんがどのような疾患を抱えていて、その原因細菌はどれなのか診断することで適切な抗生物質の使用につながります。抗生物質を服用する患者さん側は抗生物質を正しく服用しなければいけません。決まった回数に決まった錠数を服用することで抗生物質の適正使用を心がけましょう。決して飲み忘れず、飲み忘れてもまとめて飲まないようにしましょう。

▲高齢者の多剤服用の弊害
高齢者は持病を抱えている人が多く、様々な医療機関を受診している結果として多くの種類の薬を服用していることが今まででわかりましたね。では、ここからは高齢者における多剤服用の弊害について紹介していきます。

■高齢者の身体的機能低下
薬の多くは腎排泄型と肝排泄型の2種類に分けられます。例えば腎疾患を抱えている人、腎臓の機能が加齢によって低下している人へ腎排泄型の薬を投与しても排泄できず有害事象が起きる原因となります。高齢者は若い世代に比べて薬の代謝が悪いため、効きが悪い傾向があります。

■副作用なのか薬が効いていないのか
薬には副作用があることは紹介しましたよね。多剤服用していると薬を服用したときに起きる有害事象が副作用なのか判断がつきにくくなります。副作用であれば薬を減薬する、中断するなどで対処できますが薬に相互作用が働き効果が出ていない場合などは注意が必要です。

●薬の多剤併用にはどのように対処すれば良いか
高齢者の方が何種類もの薬を服用している場合、どのようにすれば良いでしょうか。まずは高齢者の方がどのように感じているかが問題となります。高齢者の方が薬の量を減らしたいと考えている場合は主治医へ相談するようにしましょう。医師の判断を待たずに自分で薬を中断・休薬するのは絶対にやめましょう。
また、薬を使わないで治せる病気であれば薬を使わないで治療するのも一つの手です。薬を使わないで治療できる病気として代表的なものとしては生活習慣病です。特に糖尿病や高血圧・脂質異常症は薬を使用せずとも生活習慣を改善することで病状が安定することがあります。

●薬の副作用を理解しよう
薬は万物を治療するものではありません。薬の中にはリスクがあると紹介したように、しっかりと副作用を理解して使用しなければいけません。もし、ご家族が薬を服用しすぎている・薬を望んでいないのに飲み続けているなどのことがあれば主治医へ相談してみましょう。他にも薬の管理方法や服用の有無など患者さんサイドの取り扱い一つで薬は「くすり」にも「リスク」にもなるものです。薬の正しい服用方法がわからない方は主治医や薬剤師へ相談すると良いでしょう。
高齢になればなるほど服用する薬の種類も多くなるため副作用や使用方法についての理解が求められます。高齢者の方だけで生活しているような場合は、曜日ごとに区切られた薬ケースを用意してご家族の方が薬の仕分けをしてあげる。そして、薬の服用忘れがあればその管理もしてあげる。ここまでしてあげると高齢者の方も安心して薬を服用できますね。

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