消毒の長い歴史!消毒薬の種類と分類を紹介します

新型コロナウイルス感染症の流行で私たちの生活はガラリと変わりました。消毒しなければ服屋や飲食店へ入ることができません。今や消毒することが「マナー」になりつつあるのではないでしょうか。今回はそんな消毒について深掘りしていこうと思っています。消毒薬や消毒の文化がいつから始まっているのか、消毒薬にはどのような種類のものがあるのか紹介していきます。

●消毒薬の歴史
消毒薬が初めて登場したのは19世紀初頭といわれています。1822年にはフランスの薬剤師がさらし粉とソーダで作った水溶液で遺体から発生する異臭を防ぐことに成功しています。この水溶液を使用して環境消毒や生体消毒の効果を示した薬剤師は1825年にある論文を発表します。それが伝染病患者を担当する医師や医療スタッフに対して、塩素化合物溶液に手を浸すことで感染予防の有用性が認められたというものでした。
他にも1846年にウィーン総合病院第一クリニックにて分娩した妊婦の死亡率が、第二クリニックの妊婦よりも高いというデータがありました。第一クリニックでは、解剖室から産婦人科へ移動する際に石鹸と流水にて手洗いを徹底していたにも関わらず、手に異臭が残っていたことがわかったのです。そして、その異臭こそが産褥熱の原因である「死体粒子」であり、医師や医療スタッフを介して死体から妊婦へ死体粒子を運搬していたという証明ができたのです。そこで病院では塩素化合物にて手指を洗浄するようにしました。その結果、第一クリニックの妊婦の死亡率は大幅に減少することになります。このことから石鹸と流水で手指を洗浄するのではなく、手指消毒薬を併用することでより高い伝染病予防に効果があることがわかりました。
その後も、医療機関において手洗いの重要性と消毒の重要性が注目され続け、手洗いと消毒は患者さんを守るためにも必要だと実践する医療従事者が増えました。1961年にはアメリカ公衆衛生局が医療従事者用の手洗いトレーニングフィルムを作成。当時は患者と接する前に1、2分手洗いをすれば十分だという考えが一般的だった中、一石を投じる形になりました。
▲様々な消毒薬の使い道
消毒薬は手指消毒や皮膚消毒に使用されているだけではありません。環境消毒という言葉があるように室内や診療室を衛生的に保つために使用されることがあります。以前は創部の消毒に石炭酸が使用されていた背景がありました。また、創部の感染は空気中に浮遊している微生物が原因であるとされていました。空気中の微生物に対して、1871年石炭酸噴霧装置が考案され手術室や手術台の消毒をしていました。しかし、その効果が立証できず環境消毒にグルタラールが使用されるようになります。
▲器具への消毒
石炭酸は手指の消毒・環境消毒だけでなく医療器具への消毒にも使われるようになりました。それまでは煮沸することが一般的で、酷い医療機関では注射針が煮沸程度の消毒で再利用されていることも珍しくありませんでした。現在の感染症予防の考えからすればあり得ないことですが、当時は消毒に対する知識や感染症の全体像が見えていなかったのです。その後、感染症の原因細菌・ウイルスが明らかになり新しく高圧蒸気滅菌機やエチレンオキサイドガスの登場により滅菌方法が確立されると器具の消毒・滅菌方法が明確になっていきました。

●消毒薬の3大要素
消毒薬には基本原則として3大要素というものがあります。3大要素によって消毒薬の効果が大きく変わってくるのです。
▲濃度
濃度は使用する薬液の濃度を指します。高濃度の方が消毒効果が高いですが、アルコール消毒液の場合は高濃度すぎる場合は引火性が高まります。引火性が高くなると取り扱い方法に注意が必要で操作性が悪いため希釈して使用することが一般的です。逆に濃度が低すぎると効果が十分に出ません。アルコール消毒液であればウイルスに対して50%以上の濃度がなければ効果が出ないとされています。
▲温度
一般的に消毒薬の温度が高ければ高いほど消毒効果が高いとされています。ボーダーラインは20℃で、20℃以上で消毒することが望ましいです。
▲時間
時間とは消毒液がモノに触れている時間です。手指消毒の場合は、消毒薬を手につけている時間が長ければ長いほど消毒効果が高く、短ければ消毒効果が低くなります。

●消毒薬の種類や使用方法
消毒薬には様々な種類と使用方法があります。
▲消毒薬の分類
消毒薬は効力によって水準が3段階に分けられます。
<高水準>
細菌の中には芽胞という強力な細菌構成物質があります。芽胞があると消毒液などが効かなくなります。高水準の消毒薬では芽胞を有する細菌を除き、ほとんどの微生物を死滅させます。
例)グルタラール、フタラール
<中水準>
結核の原因細菌をはじめとするほとんどのウイルスを死滅させます。
例)次亜塩素酸ナトリウム、ポピドンヨード、消毒用エタノール、クレゾール石鹸
<低水準>
ほとんどの細菌・ウイルスを死滅させます。
例)ベンザルコニウム塩化物、クロルヘキシジングルコン酸塩

このように3種類に分けることができる消毒薬ですが、使用できる部位や消毒対象が異なります。ここからはどの消毒薬でどこを消毒できるのかなど紹介していきます。


▲使用部位で分けた場合
消毒薬には使用できる部位が決まっています。今回は一般的な消毒薬である「グルタラール」「次亜塩素酸ナトリウム」「ポピドンヨード」「消毒エタノール」「クロルヘキシジン」「塩化ベンザルコニウム」の6つを紹介していきます。
<手指消毒>
グルタラール:使用できない
次亜塩素酸ナトリウム:使用方法による
ポピドンヨード:使用できる
消毒エタノール:使用できる
クロルヘキシジン:使用できる
塩化ベンザルコニウム:使用できる

手指消毒として高水準と呼ばれる消毒薬は使用できません。また、キッチン用漂白剤として使われる次亜塩素酸ナトリウムも使用できません。消毒用エタノールやクロルヘキシジンなどは市販の消毒薬にも添付されており、手指消毒に応用されています。

<環境消毒>
グルタラール:使用できない
次亜塩素酸ナトリウム:使用できる
ポピドンヨード:使用できない
消毒エタノール:使用できない
クロルヘキシジン:使用できる
塩化ベンザルコニウム:使用できる

手術台や手術室の消毒に使用される環境消毒ではクロルヘキシジンや塩化ベンザルコニウムが使用されます。ポピドンヨードも理論上は使用できますが、着色成分が強いため色をつけてしまうリスクが高くなるため使用しません。次亜塩素酸ナトリウムは環境消毒に利用できますが金属腐食作用(錆させる)があるため金属が使用されている環境下では使われません。

<粘膜>
グルタラール:使用できない
次亜塩素酸ナトリウム:使用できることがある
ポピドンヨード:使用できる
消毒エタノール:使用できない
クロルヘキシジン:使用できない
塩化ベンザルコニウム:使用できる

粘膜には主にポピドンヨードが使用されます。手術の際に術野を消毒するのはポピドンヨードですし、うがい薬としてもポピドンヨードが使用されています。

▲消毒対象で分けた場合
同じように消毒対象で分けた場合を紹介します。
<ウイルス>
グルタラール:使用できる
次亜塩素酸ナトリウム:使用できる
ポピドンヨード:使用できる
消毒エタノール:使用できる
クロルヘキシジン:使用できない
塩化ベンザルコニウム:使用できない

高水準・中水準の消毒液はウイルスへ効果を示しますが、低水準の消毒液は効果が薄いため効きません。また、ウイルスと表記しましたがHIVウイルスやHBウイルスはこれらと別枠で基準が設けられています。

<一般細菌>
グルタラール:使用できる
次亜塩素酸ナトリウム:使用できる
ポピドンヨード:使用できる
消毒エタノール:使用できる
クロルヘキシジン:使用できる
塩化ベンザルコニウム:使用できる

一般細菌にはどれも効果を示すことがわかっています。日常の風邪予防や感染症対策で手指消毒をはじめとする各種消毒の有効性はこのことが裏付けとなっているのです。


●まとめ
消毒薬には多くの種類があることがわかりましたね。毎日の消毒をむやみやたらとするのではなく、適切な消毒薬を適切なタイミングで使用するようにしましょう。

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