統計学的にみたヒートショックの死亡数は19000人?交通事故より多い身近な事故
2019年の1年間で日本人の自然増減数(出生数と死亡数の差で計算)はマイナス51万5864人でした。これは少子高齢化が顕著に進行しているという意味です。人口動態統計月報年計をみると死亡原因まで明らかになります。日本人は悪性新生物・心臓疾患・老衰・脳血管疾患・肺炎の順に死亡率が高いです。今回はそんな死因にも関係するヒートショックという事故について話をしていきます。
- 死因の推移と順位
日本人の死因は冒頭でも紹介したように悪性新生物・心臓疾患・老衰・脳血管疾患・肺炎の順に高くなります。一昔前までは肺炎が3位、老衰が4位でしたが老衰の順位が上がってきています。2019年だけでみれば、2018年と比較して10%以上も老衰の割合が増えました。これは日本の医療水準が上がったことが要因として挙げられます。老衰の割合が増加したということは高齢化が社会問題となっている今、医療や介護分野において看取りに関しての需要が高まることを意味しています。実際、2020年の診療報酬改定では地域包括ケア病棟における「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」という指針やACPに関する重要性が高まっていることがわかります。
2019年のデータで悪性腫瘍は37万6392人、心疾患は20万7628人、老衰は12万1868人、脳血管疾患は10万6506人、肺炎は9万5498人が亡くなっていました。これらは季節性はなく、通年であまり変動がありません。しかし、今回お話をするヒートショックは季節性があるのが特徴です。
- ヒートショックとは?
ヒートショックとは血圧の変動が原因で起きることを指します。ヒートショックにより死亡する人は年間一定数いますが、ヒートショックが直接の原因で亡くなることは少ないです。血圧の変動とは、どのようなときに起きるのでしょうか。それは寒暖差です。寒暖差が大きいと血圧に大きな負担をかけることとなり、ヒートショックの発生リスクを高めてしまいます。
ヒートショックで死亡する人は年間1万9000人といわれています。統計学的にみるとこれくらいの数の人が亡くなっているだろうという推計ですが、実際にヒートショックが原因で亡くなったであろう人は2018年の段階で5398人(厚生労働省・人口動態統計参照)です。これは自宅の浴室で溺死していた人の数で、2004年は約2900人だったので2倍近くまで増加していることがわかります。厚生労働省では、この数字の推計で1万9000人という数字を出しており、溺死者のうち9割が65歳以上の高齢者となっています。その中でも75歳以上の年齢層は自宅浴室での溺死頻度が高く、入浴をする際に注意するよう季節ごとに喚起しています。
▲ヒートショックのメカニズム
では、ヒートショックはなぜ起きるのでしょうか。血圧の変動と寒暖差という2つのキーワードを交えて話を進めましょう。まず、私たち人間の身体の中には血液が流れています。血液の中には酸素を運搬する細胞や組織へ栄養を伝える細胞などがあり、大きな血管だけでなく細かな血管(毛細血管)にまで血液が行き渡ることで身体機能を維持しているのです。そんな血液は心臓をポンプのような役割として全身へ送り出されます。この送り出すときに血管へかかる圧力を血圧というのです。血圧はホースのような弾性があり、健康な人であれば伸び縮みします。年齢を重ねると血管が硬くなってしまうことがあり、これを動脈硬化と呼びます。
血管が伸び縮みしたときの状態を拡張と収縮と呼び、これらの状態で測定する血圧を収縮期血圧・拡張期血圧と呼びます。一般の方たちは血圧を「上は〇〇で下は〇〇」といいますよね。上というのは収縮期血圧、下というのは拡張期血圧といいます。一般的に収縮血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上で高血圧と診断されます。高血圧の中には治療が必要なケースもありますが、高血圧なだけでは無症状な人も多いため治療しない人も一定数います。
高血圧を放置してしまうと、血管内壁へ高圧で血液が流れ続けることになり血管が痛んでしまいます。そこへ寒暖差が介入するとヒートショックのリスクが高くなるのです。人間の身体の中には恒常性という機能があります。恒常性とは、体温を一定に保つことで、寒い環境へいけば身体を震わせて温める・暑いところでは汗をかいて体温を下げるなどといったことです。血管は寒いところでは収縮し、暑いところでは拡張させます。このように血管は恒常性、つまり外気や体感温度によって変動するのです。血管はホースのような弾性があるといいましたよね。皆さんも一度は使ったことがあるホース。ホースをそのまま持った状態で水を出すのと、ホースの口を掴んで狭くして水を出した場合ではどちらの方が水力が強いでしょうか。ホースの口をつかんだときの方が水の威力は強く出るのではないでしょうか。血管内でも同じようなことが起こります。
寒いところでは血管が収縮して、血圧が上昇します。その後、暖かいところへいくと血管が拡張して血圧が低下するのです。この原理で血圧の変動が起こり、めまいや立ちくらみを起こすことがあります。高血圧を抱えている人では血管が切れてしまい、脳出血を起こすこともあります。
▲ヒートショックの好発時期は冬場
ヒートショックが一番起きるのは11月〜3月までの冬場です。リビングが暖かく、浴室や脱衣所は寒いですよね。このような条件が重なるとヒートショックを起こしやすくなるのです。さらに、昔の日本家屋は自宅の北側に浴室を設計することが多かったです。冬場は北風が強く吹き、浴室や脱衣所を冷やします。暖かいリビングから寒い脱衣所へ行き、血圧が上昇。そこから浴室へ移動すると、換気している浴室では外気と同等に寒いため、さらに血圧が上昇。そして浴槽の中へ入ると血管が広がり血圧が低下する。お風呂から出るときには、急激な血圧低下によりめまいや立ちくらみを起こします。
- ヒートショックの予防法
ヒートショックを予防するためにも血圧と寒暖差という2つのキーワードが大切になります。
▲血圧の管理
血圧の管理はいつでも誰でもできることです。若い世代でも肥満体型の方や喫煙者の方は高血圧のリスクが高いため血圧計で定期的な測定をしましょう。65歳以上の方は毎日血圧測定して自分の日頃の血圧を把握しておくと良いです。先ほど紹介して高血圧の数値は診療室で測定する診療室血圧のことで、自宅などで測定する家庭血圧とは数値が異なります。自宅で測定する場合は前述の数値から-5をした数値を目安にしてください。
▲寒暖差の対策
脱衣所や浴室の寒暖差を予防するためにも簡易ヒーターを設置しましょう。脱衣所の温度を上げるだけでもヒートショック予防につながります。ヒーターの設置が難しい場合は、お風呂を溜めるときにシャワー経由でお湯を張ると良いです。蛇口からお湯を張るのとは違って、お湯が拡散するため浴室全体の温度を上げることができます。
▲家族がいる時間にお風呂へ入る
高齢者の方は家族がいる時間や起きている時間にだけお風呂へ入りましょう。ヒートショックが直接的な死因となることよりも、ヒートショックが原因で意識を失い浴室で溺死することの方が割合として多いからです。自分は絶対ならないと思うのではなく、いつなってもおかしくないという認識を持ち冬場のヒートショックを予防しましょう。
- ヒートショックに対する面白い取り組み
日本気象協会では近年、ヒートショックの危険度を予測した「ヒートショック予報」なるものを公開しています。その日の気象予測情報をもとにして自宅内で起きうるヒートショックのリスク目安となっています。住宅の構造や設備の有無・自身の体調などによりリスクの増減がありますが参考にしてみるのも良いのではないでしょうか。ヒートショック予報では、油断禁物・注意・警戒・気温差警戒・冷え込み警戒の5段階で表示しており、地域ごとに分けられています。ヒートショック予報を参考にするのも一つの手かもしれません。
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