ドローンで医薬品配送!ガイドライン策定の裏には僻地医療

空飛ぶ車や空を人が移動する世界―これらは21世紀からきた猫型ロボットが勉強できない少年を救う物語だけの話でした。しかし、現代では空中を使って物資の輸送へ向けて動き出しているのです。2021年6月に内閣府・厚生労働省・国土交通省は「ドローンによる医薬品配送に関するガイドライン」というものを公表しました。今回はドローンでものを運ぶという夢の実現へ話を進めていこうと思います。

 

  • ドローン規制の歴史

ドローンとは、無人航空機のことで地面と水平に4つまたはそれ以上のプロペラが搭載されています。いわゆる空撮が手軽にできるため、動画クリエイターだけでなく趣味で楽しむ人も増えているのです。しかし、そんなドローンは事故が多いことでも有名です。

▲ドローンの事故件数

国土交通省が発表した「令和2年度無人航空機に係る事故トラブル等の一覧」をみると年間70件の事故が発生していました。事故の概要としては、突風や落雷など自然災害が原因のものだけではなく、ドローン本体とコントローラーの接続不具合により、電波が途絶えて墜落したというケースもあります。

ドローンによる死亡事故も起きています。国土交通省や農林水産省が把握しているドローンによる死亡事故は3件です。ほとんどが農業用ドローンの操縦ミスで操縦者にぶつかっています。怪我だけの事故も年間数件ペースで起きており、政府は対策に前向きな姿勢をとっていました。

▲ドローンのルール

従来、ドローンは農業用無人航空機としての立ち位置が強かったです。広い田畑で操縦するだけで、特ベル国家資格など免許を指定していません。こうした背景から、政府はドローンに対する航空法の適用を検討し始めます。航空法改正案では、操縦者に対して飛行前点検や気象状況の確認、飛行機との衝突予防を義務化しました。また、急降下など他人の迷惑となりうる行為や飲酒後の操縦を禁じました。事故が発生した際には、国が操縦者へ聞き取り調査や立ち入り調査をすることも盛り込まれています。このようにドローンによる事故の増加とともに法により縛られることも増えていったのです。

▲ドローンの活用法

ドローンは主に広い田畑へ農薬や肥料・水などを散布するために使用されていました。その後、ドローンにカメラを搭載した「ドローンカメラ」が登場します。テレビ番組だけでなく、動画投稿サイトなどでもドローンカメラを用いた映像が使われています。また、改良されたドローンは重さに強くなり、ものを運べるまで進化しました。

近年では、人が立ち入るには危険な災害現場や開発途上区の空撮や人感センサーを導入して生き埋めになっている人がいないかなどを調べています。このようにドローンの活用の場は確実に広がっているのです。

  • 空を自由に飛べる時代へ

ドローンで物の運搬ができるようになりましたが、前述のようにドローンによる事故は増加の一途を辿っています。そこで政府は「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドライン」を2021年3月に公表しました。このガイドラインが公表された背景にはドローン事故の多発はもちろんですが、慢性的なトラックドライバー不足も影響しています。トラックは日本の血液と呼ばれるほど、重要な役割をしています。日夜問わず、走り続け日本全国の物流を支えているのです。そのおかげで私たちの生活は支えられています。しかし、トラックがあっても運転するドライバーがいないのでは意味がありません。そこでドローンに白羽に矢が立ったのです。

ドローン物流の社会実装は2018年に国の調査事業としてスタートしました。2019年に国基本的な指標がまとめられ、2020年度から実用化へ向けた計画策定や機体の導入に関する支援が行われるようになり、全国規模で社会実験が行われ始めています。

その指標となるのが「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドライン」です。このガイドラインでは、ドローン物流導入時の関係法令や事業継続性などについて明記されています。

▲空を飛ぶための法律

ドローンが空を飛ぶためにクリアしなければいけない法律がいくつかあります。

■航空法

航空法第132条・132条の2・132条の3および「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領」の規則をクリアしなければいけません。中でも、ある空域ではドローンを飛行させる場合、国土交通大臣の許可を得る必要がある点に注意が必要です。また、車の運転と同様にアルコールの影響下で飛行させない点や、飛行前の機体の安全性を確認することも航空法で明記されています。

■電波法

ドローンで電波の送受信が必要となった場合、電波法第4条に基づき無線局の免許または登録を受ける必要があります。

■道路交通法および道路法

ドローンを用いて公道で空撮をする場合、道路交通法の道路使用許可を取る必要があります。

 

この他にも適宜関係法令を遵守する必要があると「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドライン」に明記されているのです。

  • ドローンによる医薬品配送に関するガイドライン

今回、内閣官房・厚生労働省・国土交通省の連名で公表された「ドローンによる医薬品配送に関するガイドライン」では、ドローンを用いて医薬品を配送する際の注意事項が明記されています。今後、政府は薬局開設者や医療機関の開設者がドローンを用いて、医薬品を配送することを想定しています。これは僻地医療対策のためと推測できます。

▲僻地医療の現状

僻地保険医療対策における「僻地」の定義とは「交通条件および自然的、経済的、社会的条件に恵まれない山間地、離島その他の地域のうち医療の確保が困難であって「無医地区」および「無医地区に準じる地区」の要件に該当する地域」とされています。僻地においては医療提供体制が十分といえないエリアがまだ多く、チーム医療の充実度が低いです。総合医という形で大学病院の医師が派遣されているケースが多いですが、安定・継続の医療提供と言えません。昭和41年には無医地区が全国で約3000地区ありましたが、平成26年には約700まで減少しています。

しかし、僻地医療に関する問題は解消されていません。日本国の推奨している医療制度は「国民がどこにいても自由にアクセスできる」というものです。田舎に住んでいるからできない医療があるのはおかしいという考えを厚生労働省もしています。ただし、重粒子線治療など先端医療は除きます。僻地医療は大病院や大学病院などが使命感で行っているだけであり、安定した医療提供環境には至っていないのが現状です。僻地から大病院へ患者を搬送する際にはヘリコプターや航空機を使用して搬送することもあります。

  • ドローンで運ぶ夢と薬

ドローンで医薬品を運べるようになったのは革新的な出来事だといえるでしょう。2022年度からはオンライン診療が恒久化します。僻地に属する患者は自宅へインターネットを開通させ、医師とオンラインで繋がれる環境を整えます。オンライン診療の後、医薬品が必要と判断すればドローンを用いて患者の元へ医薬品を搬送できるのです。従来のように患者が通院する必要もなく、僻地医療に適するのではないでしょうか。

ドローンで医薬品を搬送する際のガイドラインとして、「ドローンによる医薬品配送に関するガイドライン」が策定されたわけですが、ドローンから患者へ直接医薬品を渡す際には看護師など医療の有資格者が行う必要があると書かれています。

つまり、最終的には医療従事者の介入が必要となるのです。ここを運送業者や地域の代表者など固定の人に限定すればより僻地医療に寄り添うことができるのではないかと考えます。しかし、まだまだ試験的に運用されたばかりです。患者のことを思う気持ちは誰も変わらないと思います。これからドローンによる医薬品配送がより良いものになるのを願います。

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