怒りっぽい症状は認知症の始まりかも|攻撃的で目つきが変わる原因やどうするべきか、薬の適応も含めて解説
「最近、80代の母親が怒りやすくなった」「目つきが変わって攻撃的になった」と感じるとき、ご家族はどうするべきか対応に悩むことでしょう。
怒りっぽい症状は認知症の始まりの可能性もあり、原因を踏まえたうえで適切な対応が必要です。
この記事では、認知症で怒りっぽい症状が出る原因や適切な対応方法、薬で対応できるのかについて解説します。怒りを助長させ介護者の負担が増えないよう、ぜひ紹介する対応方法を取り入れてみてください。
認知症の初期に起こる「怒りっぽい症状」とは
怒りっぽい症状は、認知症の初期症状のひとつで「易怒性(いどせい)」と呼ばれます。
認知症により怒りっぽくなると、穏やかな人でも目つきが変わったり攻撃的になったりするため「性格が変わった」と感じることもあるでしょう。なかには「頑固になった」と感じる人もいます。
まずは、認知症の初期症状として出やすい怒りっぽい症状の例を紹介します。
当てはまる認知症の怒りっぽい症状をチェック
認知症による怒りっぽい症状では、以下の様子が見られます。
- 目つきが変わる
- 急に不機嫌になる
- 大声をあげて威嚇する
- ブツブツ攻撃的な言葉を言う
- 暴力的になった
認知症が原因で怒りっぽくなった場合、今まで穏やかで優しかった人でも人柄が変わったように感じる言動を起こします。ご家族は驚きや不安を感じやすいでしょう。
なお、短気な人や小さいことを気にする人など、性格によって認知症の引き金となる場合もあります。詳しくは以下の記事も参考にしてください。
〈関連記事〉認知症になりやすい人の特徴とは?原因と予防策を解説
怒りを引き起こす認知症の行動・心理症状(BPSD)
認知症にはBPSDと呼ばれる、以下の行動・心理症状があります。
- 妄想
- 幻覚
- 焦り
- 抑うつ
- 不安
- 過度な幸福感
- 意欲の低下や喪失
- 刺激への過敏性
- 異常行動
- 睡眠障害
- 異常な食行動
なかでも怒りっぽい症状を誘発しやすいといわれているのが、妄想や幻覚・自制力の低下などです。また、苛立ちや焦りによる興奮や不穏・攻撃性などの症状も関連しており、これらがきっかけとなり、その人の閾値(しきいち/いきち)を超えると怒りのスイッチが入ると考えられています。
実際には「期待通りにいかない・価値観を否定される・体調が悪い」などがきっかけとなり、怒りっぽい症状が出てきます。
とはいえ、認知症の対応に迷う方もいるでしょう。
不安な方は、ぜひメドアグリケアにご相談ください。わたしたちは茨城県に有料老人ホームを、全国各地に訪問診療所を展開しています。
多くの認知症の方をケアしてきた介護や医療の専門職が、状況に適した介入方法を一緒に考えます。
対応方法については、以下の記事も参考にしてください。
〈関連記事〉認知症の方への上手な対応とは?
認知症で怒りっぽい症状が出る原因
認知症で怒りっぽい症状が出る原因は、以下の4つです。
また、怒りっぽい症状は認知症の種類によっても異なります。
たとえば、前頭側頭型認知症は刺激への過敏性や感情・情動の変化により、今まで穏やかだった人が怒りっぽくなる場合があります。また、レビー小体型認知症では幻覚などから恐怖を感じ、振り払いたい衝動から暴力的になることもあるでしょう。
認知症でなぜ怒りっぽい症状が出てくるのか、詳しく解説します。
感情のコントロールができなくなるため
認知症に怒りっぽい症状が出るのは、前頭葉の機能低下により感情のコントロールができなくなるためです。前頭葉は脳の前側にあり、情動や感情の中心的役割を担う「大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)」と呼ばれる部位の活動を制御しています。
その機能が低下することにより、感情のまま怒りっぽい症状が出てきます。
周囲の状況を理解することが難しくなるため
認知症の方は周囲の状況を理解できないことで不安や焦りを感じ、怒りっぽい症状につながります。認知症は認知や記憶力の障害のほか、時間や場所・出来事の前後関係が分からなくなる見当識障害や、理解力・判断力の低下を招きます。
状況理解ができないことで、以下の状況で怒りっぽい症状が見られるでしょう。
- 介護や介護者を受け入れられない
- 待ち時間などで自分のペースを乱される
- 物が見つからない
- 食事をとったことを忘れる
- 自宅が認知できない
気持ちや不調をうまく伝えられないため
認知症になると気持ちや不調をうまく伝えられず、怒りっぽい症状につながる可能性があります。
私たちが会話をするときは、今いる場所や時間・自分が誰かを理解したうえで、合理的に話を進めます。
しかし、記憶力や注意力・見当識※の低下などがある認知症の方は、その言葉通りの意味にしか解釈できなくなり、会話もかみ合わなくなるでしょう。
※見当識:自分がいる場所や日時などの基本的状況を把握する能力のこと
プライドが傷つけられるため
プライドが傷つくことで、怒りっぽい症状につながることもあります。
認知症の方は「やっていたことができなくなった」「能力が前よりも落ちた」ことは自覚しています。否定や指摘をされたり介護を受けたりすることで、プライドが傷つく人もいるでしょう。
内服薬などによる影響が出ている可能性があるため
怒りっぽい症状は内服薬などの薬が影響している可能性もあります。
たとえば、認知症薬で用いられるアリセプトは認知症の進行を遅らせることができる一方で、脳内の神経伝達物質であるドーパミンを増加する作用があります。そのため、副作用として突然暴れだしたり妄想や幻覚を視たりする「せん妄」が引き起こされる可能性もあるでしょう。
また、色々な内服薬等を併用することで、副作用として認知症に似た症状が出ることもあります。まずは、かかりつけ医に相談してみてください。
怒りっぽい症状以外の認知症の初期症状
認知症には怒りっぽい症状のほかに、以下の初期症状があります。
- もの忘れが増える(記憶障害)
- 時間や場所が分からなくなる(見当識障害)
- 理解力や判断力が低下する
- 普段の行動ができなくなる
- 混乱や落ち込みがみられやすくなる
当てはまる症状が多ければ認知症の可能性があるため、かかりつけ医に相談しましょう。
なお、もの忘れには認知症によるものと加齢によるものがあります。詳しくは以下の記事も参考にしてください。
〈関連記事〉「認知症」と「もの忘れ」の違いは?|予防・進行させないために必要なことも解説
怒りっぽい症状のある認知症の方への対応方法
怒りっぽい症状のある認知症の方には自尊心を傷つけずに、安心感を与える関わりが大切です。具体的な対応方法は以下のとおりです。
不適切な対応は、怒りを助長させる可能性があります。適切な対応方法を確認し、普段の関わりに取り入れてみてください。
怒りの理由を聞かない、一緒に考える
認知症の方は怒りの理由を聞かれても自分でも把握できず、うまく伝えられない場合があります。そのことがストレスとなり、さらに怒りが助長する可能性もあるでしょう。
安心感を与えるために、オウム返しで対応してみてください。オウム返しは否定したり訂正したりせず、認知症の方に一呼吸置く間を与えられます。
否定せず話を聞いて寄り添う
認知症で怒りっぽい症状が出た際には、否定や静止をしたりせずに話を聞いて共感することが大切です。
過去の研究では、もっともよい反応を得られたケアが、興味のある話題に意図的に話を切り変えたときとの結果もあります。
ただし、不自然な話の切り替えは否定されたと受け取られる可能性もあります。そのため、関心を向けやすい話題づくりを心がけ、認知症の方の言葉を否定せずに受け止めることが大切です。
暴言・暴力が始まったら落ち着くまで距離をとる
共感してもかえって怒りを助長し、暴言や暴力が始まる場合もあります。身の危険を感じたときは、危ないものを周りから取り除き、距離をとってください。
認知症の方は周りにケガをさせたことで自分を責め、ストレスからまた落ち着かなくなる可能性もあります。
実際に、落ち着くまで見守ったことでよい反応を得られたケースもあります。怒りっぽい症状がひどい場合は、見守る選択肢ももちましょう。
かかりつけ医に相談する
認知症の怒りっぽい症状に悩んだときは、かかりつけ医に相談してください。薬の検討のほか、医療職からみた適切な関わり方をアドバイスしてくれます。
一般的に、内服を希望する場合は抗認知症薬の開始や増量の検討もできますが、逆効果になる可能性もあります。その場合、抗精神病薬や漢方の抑肝散(よくかんさん)・気分安定薬なども検討される可能性があるでしょう。
ただし、BPSDと呼ばれる認知症の行動・心理症状「妄想や怒りっぽさ・興奮」などを軽減するための薬物療法は、認知機能や運動機能に対する副作用も多くみられます。
そのため、適切な関わり方を把握し、できるだけ薬に頼らない対処法も考えることが必要です。
まとめ
高齢の家族に「怒りっぽい症状が出てきた」「人柄が変わった」などの場合は、認知症の初期症状の可能性があります。
ほかの初期症状も併せて確認し、迷うようならかかりつけ医に相談しましょう。
認知症の方は、たとえ人柄が変わっても長年生きてきたプライドをもっています。認知症は刺激にも弱くすぐに怒りっぽくなる特徴があるため、怒りにつながる原因を避け、適切な対応を心掛けてください。
わたし達メドアグリケアは、介護や医療の専門職が自宅での生活をサポートしています。訪問診療所は全国各地に展開していますので、怒りっぽい症状や認知症によるほかの症状で悩まれている方はぜひ一度ご相談ください。